365日のストーリー

忘れたくないあの1ページ

「ほんの少しの言葉でも」

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変わらない...。

 

古びた商店街は、近くに出来た

ショッピングモールのせいで

なんだか小さく見える。

 

それでも負けてたまるかとばかりに、

今日もお店たちは活気づいている。

 

商店街のど真ん中を歩いていると、

みんなからの声が飛ぶ。

 

「あら、おはよう翔ちゃん。

今日はお休みなの?

ほら、おでん食べない?」

 

買った量よりもはるかに多く

おまけをつけてくれる

おでん屋のおばちゃんに、

 

「おぉ、翔。パン食べて行かんか?

ちょうど今焼き上がったところだ」

 

毎日がパンでも良いくらい、

一番美味しいときに食べさせてくれる

パン屋のおじちゃんに、

 

「翔ちゃんあけおめー!

今年もウチの漬物、いーっぱい食べてね!」

 

いつも明るくて、元気すぎる

お店の看板娘、曜子ちゃん。

 

俺は有名人でもなんでもない。

小さい頃からたくさん可愛がってもらい、

二十歳を過ぎた今でも温かい。

 

この場所は、ずっと変わらない。

この人たちの優しさには敵わない。

 

そして、言葉の中に

そっと紛れ込んでいる『あいさつ』

当たり前のように教えられたから、

当たり前のように使ってきた。

 

でも、あいさつなんて

なんのためにするんだ?

おはよう、こんにちは、おやすみ...

いつ、どんな時に使えばいいか。

知っているのはそれだけで、

特に意味は考えたこともなかった。

 

 

 

「あ、翔くんおはよ!

もー、遅かったじゃん!

寒くて凍っちゃうかと思ったよ!」

 

「わりぃわりぃ。

商店街のみんなにつかまっちゃってさ」

 

いっぱい着こんでいるせいか、

雪だるまみたく膨らんでて

キャラクターみたいだ。

マフラーで隠れた口から

もごもご喋ってるのが面白い。

 

千春とは、知り合ってからまだそんなに

時間が経っていないのに、

昔からの幼なじみのように錯覚する。

 

歳も今年21で一緒だし、

住んでるところも近かったし、

あまりに偶然すぎる。

そして何より、お互い達成したい

目標を「夢」と呼んで追いかけてる。

 

 

「そういえば、

あけましておめでとうだね!

今年もよろしくね!」

 

「今年も、ってか俺ら去年から

知り合ったんだけどな」

 

「ほんっっっとに、翔くん細かい!!

いいでしょ!別に!」

 

「あのさ、さっき商店街歩いてて

思ったんだけど...。あいさつって

なんの意味があんだろな。

別にしなくたって変わんないのに」

 

そうかな?

私は好きだけど、あいさつ」

 

「いちいちする必要あるか?

あいさつが好きなんて、

一度も思ったこともない」

 

あいさつって色んなのがあるよね?

翔くんが言うように、意味が

よくわからないのもあるかも」

 

「やっぱそうだよな。

じゃあ、なんであいさつって

するんだろうな」

 

「私が好きな理由は、相手のために

してることだから、かな」

 

「相手のため?あいさつが?」

 

「そうだよ。あいさつには

その一言以上の思いやりがあるの。

一日頑張って帰ってきた人には

お疲れさま、お帰りなさい。

ご飯を作ってくれた人に

感謝の気持ちを込めて

いただきます。

おいしかったよ、ごちそうさま。

ゆっくり休んでね、また明日ね

で、おやすみなさいって」

 

「そんな風に考えたことなかったな」

 

「あいさつに一言足してあげるとね、

とっても思いやりのある言葉になるの。

翔くんの応援だって、

いつもちゃーんと届いてるよ。

おかげで毎日頑張れるんだから。

支えてくれて、ありがとね」

 

「な、なんだよ、急に...」

 

「あれ?あいさつされたら

返さなきゃじゃないのー?」

 

「こ、こちらこそ。

話聞いてくれて、いつも温かい気持ちに

してくれて、応援してくれて...

どうも、ありがとう」

 

「うん!どういたしまして!」

 

 

あまりにも綺麗すぎる笑顔だった。

今年もたくさん、この笑顔に

元気もらうんだろうな。

 

「なーに、ニヤニヤしてんの!

早く初詣行くよー!」

 

「し、してねーよ!

千春こそ、なんだそれ鼻真っ赤にして。

クリスマスはもう

終わりましたよ、トナカイさん」

 

「寒いんだもん、しょーがないでしょ!

翔くんが早く来ないからいけないんだよ!」

 

 

 

あいさつに想いを一言添えて、

毎日を頑張る、大事な人へ。

 

 

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『本当の自分、偽りの自分』

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今回の心理学テーマは『自己呈示』

 

これは一体どんなものなのか。

はたまた、どんな使い道があるのか。

 

とある女性を覗いてみよう。

 

 

*****************

 

 

”ピロン♪”

 

スマホ画面に表示された

メッセージを確認する。

 

 

さつき:

「今日は18時集合だからね!

遅刻厳禁!(`^´)ちゃーんと

可愛い格好してくるんだよ!」

 

 

 

 

「もう、わかってるって...」

 

鏡に映った自分と目が合う。

 

「今日こそ、頑張るんだから」

 

仕事ばかりに気をとられ、

気づけば20代も半ば。

 

テレビでは

新年出かけたいデートスポット特集”

と題して、私よりも若い子たちが

キャッキャ騒いで楽しそうだ。

 

最後に彼氏がいたのは

いつだったっけ。

インドアでゲームヲタクの私は、

愛想を尽かされフラれてしまった。

 

「俺がいなくたって、

ゲームがあれば生きていけんだろ」

だっけな。そんな感じの

捨てゼリフだった気がする。

 

「ミサは大食いだし、服もだせぇし、

もっと女らしくしたほうがいいぞ」

 

うるさい。女らしさってなんだ。

これでも私はちゃんと女として

25年間生きてきた。

 

 

 

今日はさつきが組んでくれた合コン。

ちょっとそういうのは苦手で...

なんて避けてきたけど、

もうそんなことも言ってられない。

このチャンスを逃したら、

去年みたく一人の部屋でツリーだけが

ピカピカ光るクリスマスの再来だ。

買ったゲームは当然その日に全クリ。

あぁ、さよならメリクリ。

 

 

「モテる女に共通する特徴」

「可愛い子は絶対にしない言動」

 

ネットで下調べは万全。

いざ、戦場へ。

 

男女3対3のタッグマッチ

...じゃない。これは個人戦だ。

ボロは絶対に出さない。

 

席に着くなり、

真正面の男性と目が合った。

 

か、カッコいい...。

どタイプ、どストライク。

防御が甘かったか。

いきなりライフルで

打ちぬかれてしまった。

 

「今日は楽しみましょー!

かんぱーい!」

 

早々に自己紹介が終わり、

フリートークに入る。

先手を打たねば...

速攻こそ最強の攻撃だ。

 

 

「あの...なんてお呼びすれば...」

 

「そんな堅くならないでください!

トシでいいですよ!

...って僕も敬語ですね!」

 

なんて爽やかな笑顔なんだ。

顔はカッコイイし、ワインレッドの

ジャケットを完璧に着こなしている。

 

高すぎる、ステータスが...。

 

「ミサさんは、何か

趣味とかあるんですか?」

 

 

来た。

ここは絶対に

間違ってはいけない分岐だ。

一歩間違えばバッドエンディング

まっしぐらになる。

 

「最近、ボルダリングを始めて...

あ、あと料理教室とかも少々」

 

「すごいですね!料理もできて、

運動もされてて。

ぜひ今度ご一緒にどうです?」

 

壁をのぼる仕草をしながら

爽やかスマイル。

もちろん、ボルダリングなんて

やったことない。

むしろ「ボルダリング」という単語を

スムーズに言えただけでも奇跡。

 

 

「はい!ぜひ!」

 

 

おっと、危ない

断して目の前のピザを

ガツ食いするところだった。

少しづつ、上品に。

 

 

「そろそろ席替えしま~す!

はーい、女性陣ひとつずつずれてー」

 

さつきの声が

終了のゴングに聞こえた。

幸せな時間は幻となって

消えてしまうのか。

他の男性と話していても、

横目でトシさんを気にしてしまう。

 

楽しそうだ。私と

話していたときよりも、全然。

笑い声が耳に届くたび

胸が締め付けられる。

 

やっぱり、私にこういう場は

向いてない...。

 

会もお開きになり、

二次会がどうだとかの

話が聞こえてくる。

 

「あ、あの!私、明日仕事で早いから!

みんなで楽しんできて!」

 

また、逃げてしまった。

街の声も音も、すべて雑音に聞こえる。

 

一人とぼとぼ歩きながら、

ほとんどご飯を食べてなかった

とに気がついた。

 

「お腹、すいたな」

 

目に飛び込んできたラーメン屋さんへ、

吸い込まれるようにして入った。

 

「すみません、ラーメンと

半チャーハン、餃子のセットで」

 

食べたら帰ってゲームでもしよう...。

すると、どこがで聞いたことの

ある声が私を呼んでいる。

 

「ミサさん、ご一緒しても

いいですか?」

 

カウンター席、私の隣に

まさかのトシさん。

 

「えぇぇぇぇ!どうして...?」

 

「いや、なんかミサさん帰り際

元気なさそうだったんで、

体調悪いってウソついて。

いで追いかけたらこのお店に

入っていくのが見えたので...」

 

私を、追いかけに来てくれた…?

 

「お待たせしましたー。

ラーメンと半チャーハン、

餃子のセットでーす」

 

終わった。

こんな姿を見られたらもう
ゲームオーバーだ。

 

「あれ、ミサさん

めっちゃ食べるんですね!

僕、いっぱい食べる人

好きですよ!」

 

「そ、そうですよね!

そりゃ食べちゃいますよ!

だって、ご飯が

美味しいんですもん!

小食とか言ってる人の

気がしれません!」

 

「ミサさんの言う通りですね!

すみませーん、僕も

同じのくださーい!」

 

ウソ、みたいだ...。

自分を偽らなくたって、

そんな私が良いと言ってくれる

人がいるんだ。

私、ありのままでいいんだ。

 

食べ終わり、店を出る。

 

「トシさん!また、一緒に...

ご飯食べに行ってくれますか?」

 

「もちろんです!ぜひ、また!」

今日一番の笑顔で手を振った。

トシさんが見えなくなるまで

いつまでも、いつまでも。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

ようやく家に着き、

ワイレッドのジャケットを脱いで

ハンガーにかける。

 

すぐさま上下スウェットになり、

PCのオンラインゲームに

ログインする。

 

「ふぅ~。

あんなに食べたから気持ち悪い...。

小食だと言ったら嫌われると思って

頑張りすぎた...」

 

昨日買ったばかりのジャケットは、

パーカーだらけのクローゼットの中で

ひときわ存在感を放っていた。

 

ボルダリング...練習しないとな」

 

 

 

*****************

 

 

『自己呈示』

...コンプレックスを隠すための

戦略的な対人行為。

 

 

 

本当の姿をさらけ出すことで

吉と出るか、凶と出るか。

 

 

「もう失敗なんてしたくない」

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何かで失敗したとき。

 

 

「失敗なんて誰にだってあるんだから、

そんなに落ち込むなって」

 

「失敗は成功のもと!

失敗してなんぼでしょ!」

 

とかもろもろ、

声をかけてくれることがある。

 

 

そっか!失敗しても良いんだ!

ふんふーん♪

気にせず切り替えよーっと♪

 

 

...なんてできない。できる訳がない。

失敗したらへこむ。

地面にめり込むくらい身体が重くなる。

前向きな励ましが薄っぺらく聞こえる。

 

 

失敗なんてしたくない。

した直後はツラくて仕方ない。

何もかも投げ出したくなる。

あんなに頑張ってきたのに、

ちっとも報われないじゃんかって

現実から逃げたくなる。

 

 

 

「本当に?本当に本当に本当に

報われるほど頑張ってきた?」

 

千春は、小さい身体を大きく見せるかのように

前のめりになっていた。

 

ここはお決まりのカフェ。

いつも以上に声が大きくて周りの目が

気になったが、彼女はお構いなしに続ける。

 

 

「失敗の原因は100%準備不足じゃない

って言い切れる?どうなの?」

 

 

「いや...うん」

 

 

準備不足。

失敗した事実ばっかり棚に上げて、

やっぱり自分はダメなんだって決めつけて、

失敗した理由から目を背けていた。

 

 

「でもね、失敗は挑戦した証なんだよ。

翔くんは、思い切って立ち向かったんだよ。

失敗を覚悟で立ち向かう姿ってさ、

なんかカッコ良いじゃん」

 

 

「失敗のどこがカッコ良いんだよ。

成功した奴の方がカッコいいに決まってる」

 

 

「失敗の後は、ちゃーんと反省するの。

なんで失敗したのか。

それが分かったら今よりひとつレベルアップだよ。

今度は準備、しっかりね」

 

 

人なんて単純で、応援してくれる人が

近くにいるだけで、何度でも立ち上がれる。

 

ずっと一人だった。

孤独に勝つことが強さだと思ってた。

でも違った。人は人を強くする。

 

 

やる気マックス

頑張りマックス。

失敗で味わう悔しさはもう満腹。

これからも、挑戦し続ける。

 

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『一度OKしたら最後...』

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今回の心理学テーマは
フット・イン・ザ・ドア・テクニック

これは一体どんなものなのか。
はたまた、どんな使い道があるのか。

とあるカップルを覗いてみよう。

*******************

 

付き合って2ヶ月が経った頃。
この時期はカップルにとって絶頂期。
もはや「キミしか見えない」状態。

今日はデートの日。
休日ということもあり、
都内は人人人人人。

 

 

「ね~かずく~ん。お腹すいたよ~」

 

「そうだね...じゃあご飯でも食べに
行こうか!」

 

「やった!イタリアンが良い!この間ね、
テレビでやってたの!そこ行きたい!」

「うん!ミサちゃんが言うなら
そこにしようか!」

 

そこは、決して安いとは言えない
高級イタリアン。
入社1年目の新米社会人には
少しどころか、かなりお財布に厳しい。

しかし、すべては彼女のため。
冷凍食品を詰めただけの弁当と水筒を
職場に持参し、節約生活を始めたのだ。
これくらいの望みは叶えてあげたい。

そんなことを知るはずもない彼女は、
遠慮なんて言葉は知らないかのように
フルコースを堪能。

 

「次はね、デザートが食べたい!」

 

「デ、デザート?さっきのお店で食べれば
よかったのに」

 

SNSでみんながおいしいって言ってた
パンケーキが食べたいの!」

 

「わかったわかった。行こう行こう」

 

決して甘いものは得意ではないが、
そんなことは関係ない。
彼女が喜んでくれるなら、
生クリームだって怖くない。

 

「ふぁ~美味しかったぁ~」

 

肘をついて、両手を頬にあてながら、
満面の笑み&上目使いで見つめてくる。

 

「そ、そんな嬉しそうな顔してくれるなら
来てよかったよ」

 

この顔が見れるなら、
なんだっていいように思えてくる。
彼女がトイレで席を立ったとき、
財布の中を見てぞっとした。

でも、やっと手にした幸せなんだ。
お金で得られる幸せだってあるに決まってる。

 

「かずくん!お洋服見に行きたい!」

 

「あ、見に行くの?いいよいいよ!」

 

都内でも有名な、女性向けブランドを
取りそろえるお店へ。
彼女についていくがままに入店したが...
落ち着かない。
女性物の服しか置いてないお店に入っても、男は服を見る彼女を見てることしかできない。

 

「ねぇ、見て見て!これどう?
似合ってるかな?」

 

う、うん!すごく似合ってる!
可愛いよ!」

 

「うわー!嬉しい!ありがとー!」

 

”可愛い”なんてありきたりな言葉しか
かけてあげれなくても、全力で喜んでくれる。

本当に伝えたい言葉は、飾らないのが一番。

 

彼女はアクセサリーを身に着け、
「うーん」と鏡の前で悩んでいる。
パーティーのための服装を
決めかねている王女みたいだ。

 

ねぇ、これほしい!今日のデートの
記念に買って~!」

 

 

来た、やはり来たか。
すかさず横目で値札を確認。

いける、これならいける。
プリンセスに恥はかかせられない。

 

「わかった。じゃあこれは
僕からのプレゼント」

 

やったぁー!!!!かずくん好き~!
ねぇねぇ!今なら洋服とセットで買うと
40%オフなんだって!
これも可愛いから一緒に…ダメ...?」

 

なんだと...。洋服とセット...だと。
いや、一度いいよと言ってしまった手前、
今更ダメだと断るなんて
男らしくないじゃないか。

 

「...わかった。いいよ、一緒に買おう!」

 

 

 

そろそろデートも終わりの頃。

 

 

「今日はありがとね!いっぱい楽しかった!
また行こうね!」

 

「うん、その笑顔が見れるだけで
僕は嬉しいよ」

 

かなりの額を使ってしまった。

まぁ、また節約すれば大丈夫だ。

 

 

 

改札前で彼氏と別れてすぐに、
彼女は慣れた手つきでスマホをいじりだす。

 

”今日は食べたかったイタリアンと
パンケーキ食べて、
欲しかったお洋服も買えた!充実!!”

 

 

すかさずSNSを更新。
芸能人ばりのマメさ。

アプリを閉じ、再びスマホをぽちぽち...。

 

 

「あ、もしもし?ひろくん?
ミサ飲み行きたいよぉ~!

え!ホントにー!やったー!
期間限定の、生ハム食べ放題の
お店がいいなぁ~」

 

 

******************

 

 

フット・イン・ザ・ドア・テクニック
...どんなに小さな頼み事でも一度承諾してしまうと、次の頼み事が大きくても承諾してしまう。一貫した振る舞いをする心理を利用した交渉術。

 

 

小悪魔系女子にはくれぐれもご注意を。

 

「人の人生ばっかり輝いて見える」

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去年のこと。

なんか面白い映画ないかなー

って探してたら、気になるのがあって。

 

原作読んでたから内容は知ってたけど、

頭の中のものが現実になったら

どんな感じなのか、

気になって確かめに行った。

 

 

 

 

朝井リョウさんの『何者』

 

就活に苦悩しながら自分という存在に

葛藤する大学生の姿が細かく描かれてる作品。

観終わったあとの衝撃は

原作読んだときの倍以上。

 

 

 

「大学生って、スゲェ。」

 

 

大学生というものを経験してこなかったから、

まっっったく未知の世界。

「サークル」「ゼミ」「インターン」とか

知らないし、もはや呪文レベル。

 

 

毎日の生活を当たり前に過ごす大学生。

そんな大学生が大学生をしている最中、

俺は高卒で社会に飛び込んだ。

営業もガンガン飛び込んだ。

 

いやー、これがもうしんどいのてんこ盛り。

朝っぱらから上司の雷は落ちるし、

生まれて初めて使う敬語で

ヘンテコな言葉を生み出すし、

タイピング出来ないから

人差し指だけでメール作るし。

休日に本屋行って

「敬語・マナー入門」を立ち読みしてたの

懐かしいなぁ...。

 

 

 

いつものカフェ。

2人のお決まりの場所。

当時のことを千春に話す。

 

 

「あんときは最悪だったなー。

周りはみーんな大学生で遊びまくってたし。

うらやましかったなー」

 

 

「自分にとって当たり前の経験ってさ、

他の人からしたら特別だったりするんだよ」

 

 

そりゃ確かに、

あの頃の俺にとっては当たり前の生活。

それが...特別?

 

そして、こう続ける。

 

 

「経験にはさ、きっと選択肢があってね、

短いものもあれば、長ーいものまで。

今度の休日に美味しいご飯を

食べに行く人もいれば、

スポーツで体を動かす人もいる。

会社に勤めて働いてる人もいれば、

歌を歌ってる人もいる。

みんなが別々の場所で、色んな経験をしてる」

 

 

「だからって、みんながみんな

選べるわけじゃない。ツライ経験なんて、

誰だってしたくないのは同じだろ」

 

 

「そりゃそうよ。

悩みとか不安がおまけでくっついてきちゃう

こともあるよね。でも、今日っていう一日、

今年っていう一年、選んだ経験は

誰かにとって特別なの。

私は、翔くんの経験をしてないから

その話はできないもん」

 

 

色んな人の特別を背負ってる...か。

千春は人と見てる世界が違うのかもしれない。

俺も十分まともじゃないけど、それ以上に。

それが正解、不正解なんてのは

どうでもよくて、新鮮な言葉として

耳に入ってくるのが心地良い。

 

 

「これからさ、翔くんがまた

同じようなことで考えこまないように...」

 

 

そう言って、千春はカバンの中を

ゴソゴソとあさり、何かを取り出した。

 

どこにでもあるような小さな紙とペン。

 

「人の記憶なんてあてにならないの。

一回聞いた言葉でも、すぐに忘れちゃう。

引き出しにはしまってあるのにね、

どこにあるのかわからなくなっちゃうの」

 

 

「そりゃあ、毎日たくさんの言葉を目にして

耳にしてるからな」

 

 

「そう。だからね、

こうして目で見える形で残しておけば、

すぐに引き出せるでしょ」

 

 

なんでもない紙が、一瞬のうちに

特別なものになった。

言葉は、人が使える唯一の

魔法なのかもしれない。

 

 

「ま、この紙をどこにしまったか

忘れたら意味ねーな」

 

 

「もう!なんですぐそうやって

ひねくれるの!」

 

 

「ウソだよ、わりぃわりぃ。

大事にするよ、ありがとな」

 

 

こうしてもらった言葉を残していけると

思うと、なんだかそれだけで強くなれる。

 

一人歩く帰り道、もらった一枚の紙を見ながら

そんなことを思っていた。

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「始まりの予感」

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オレンジ色のライトに包まれ、

クラシックが流れる店内。

もうホットが染みる季節になったなぁ

なんて思いながら、

コーヒーからあがる湯気を眺める。

 

一大イベントだった「大晦日」は、

年越しを経て徐々に特別感が

薄れていって、気がつけば

変わらない日常生活。

 

 

目の前にいる彼女は、

温かい紅茶を上品に飲んでいる。

明るい色のミディアムヘアー。

パッチリとした目は、 笑うと

線で書いたように細くなる。

座っているといっそう小柄に見えるのは

気のせいか。

 

 

路上で歌っていた彼女を見たとき、

何かを感じた。

恋とかそういうものじゃなく、何かを。

耳に飛び込んできた彼女の歌声に

聞き惚れてしまったのだと思う。

そういう意味では、恋なのかもしれない。

 

あのとき、立ち止まって聴いていたのは

たぶん俺だけ。

歌い終わったあとにこちらへ 歩み寄ってきて、

「ありがとう!」と言ったあの笑顔は、

絵には描けないほど綺麗なものだった。

 

 

そのせいだ、きっと。

 

 

言うべきか言わないべきかを考える機能が

働く前に、言葉を発していた。

 

「あの...俺は!いつかみんなが手に取って
くれるような本を書くのが夢で!だから...
キミの曲を俺に書かせてくれませんか!」

 

 

なにがどうなったら

「だからその」なのか。

本当に日々言葉と向き合っている人間かどうか

疑われるくらい文脈はバラバラで、伝えたい

ことをただ並べているだけ。

それなのに彼女は、

 

 

 

「その素敵な夢、私も一緒に

連れてってくれるかな」

 

と、笑顔で言ってくれた。

これが千春との出会い。

 

こうして、奇跡的に住んでいるところが

さほど遠くなかった俺たちは、

近況報告という名目で顔を合わせている。

 

成立するかしないかも分からないような
男女の友情関係とは訳が違う。

 

いや、これはきっと友情じゃない。

2人の関係に名前をつけなくちゃ

いけないルールはない。

いつか分かる日が来るのを

楽しみにしたっていいと思う。

 

キュンキュン溢れる展開なのか、それとも
ドロドロの三角関係が完成するのか。

 


誰にも分からない結末を作っていく。

これが、人生というドラマ。

「2017」

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「3、2、1...

    明けましておめでとうございまーす!」

 

 

 

テレビから聞こえてくる明るい声。

飛び散る金銀の紙テープ。

テロップで大きく「2017」の文字。

 

一年でこんなに秒まで気にして

時計を見るのは、

年越しの時くらいじゃないか。

あ、あとカップラーメンもか。

 

 

「翔!早く着替えろよ!初詣行くぞ!」

 

「えー、やだよ、寒いじゃんか。

   昼頃でいーじゃんか」

 

「じゃんじゃんうるせーな!

   去年だって行ったろ!

   ほら、つべこべ言ってねーで」

 

「わかった、わかったから引っ張るなっての!

   直樹と亮は元気すぎんだよ!」

 

「そりゃあ、一年の始まりは

   一番元気出していかねーとな」

 

「そうそう!毎年のこの集まりを楽しみに

   仕事頑張ってるようなもんだからな」

 

 

男2人に引きずられては

さすがに抵抗できない。

 

「まったく...」

 

 

案の定、外は痛いように寒い。

ハーっと吐き出した息は、煙みたいに

空へ上がっていく。

 

 

決まったメンツで年を越し、

地元の神社へ行くのが恒例行事。

毎年変わらないことだけど、心持ちは毎年違う。

 

 

 

2016年を思い返すと、とにかくひどかった。

何をやってもうまくいかなかった。

どんどん焦って、焦れば焦るほど

やる気は空回りした。

それでも月日は流れて、

気づけばあと半年、3か月、1か月...と

あっという間に一年が終わってしまった。

 

 

負け続けた一年。負け癖をつけちまった一年。

自分に自信なんて持てなくなって、

もがいてばかりだった。

 

 

「ほら見ろ!翔がダラダラしてるから

   もうあんなに人がいるじゃねーか」

 

 

遠くから聞こえていた鐘の音が

どんどん近くなる。

パチパチと音を立てた火の光に照らされ、

たくさんの人が目に映る。

 

 

神社の鳥居をくぐる瞬間、

信じられない光景が飛び込んできた。

 

目の前に男3人組。

人違いじゃない、俺が目の前にいる。

直樹も亮も一緒だ。

 

「翔、何をボーっとしてんだよ」

 

どうやら、他の2人に

この光景は見えていないようだ。

 

『さみーよー。とっとと済ませて帰ろうぜ』

 

『翔はそればっかじゃねーか。

   ぜーったいおみくじは

   ひいてから帰るからな」

 

『お前は毎年凶だろ、懲りねーなー』

 

自分たちの声が聞こえてくる。

なんだ、この感じ...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

思い出した。

 

 

 

目の前にいる光景の正体は、

去年の自分たちそのものだ。

 

 

順番待ちの列は進み、

気がつけば次は俺の番。

賽銭箱の前、去年の俺が横にいる。

 

 

(今年一年、大きな病気になりませんように。

あきらめずに、さぼらずに毎日頑張るから、

少しでも目標に近づけますように)

 

 

そっか、そんなお願いしてたんだっけ。

すまんな、去年の俺。

期待に応えられなかったよ。

 

お賽銭を投げ入れる。

カランカラン、と音を鳴らす。

ふと横を見ると、見えていた去年の俺は

跡形もなく消えていた。

 

なんだったんだ、一体。

 

もしかして、思い出させてくれたのか、

去年の俺の言葉を。

腐りきった俺に、もう一度聞かせて

くれたのかもしれない。

 

 

任せろよ。

今年の俺が、お前の分まで

背負って走ってやる。

楽しみに待っててくれよ、来年の俺。

 

お参りを終えると、階段を降りたところで

直樹と亮が待っていた。

 

「翔、なにニヤニヤしてんだよ」

 

「してねーよ!ほら、さみーから

   とっとと済ませて帰ろーぜ!」

 

来てよかった。

足は軽く、気持ちも軽い。

 

2017、きっといい年になる。