365日のストーリー

忘れたくないあの1ページ

『本当の自分、偽りの自分』

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今回の心理学テーマは『自己呈示』

 

これは一体どんなものなのか。

はたまた、どんな使い道があるのか。

 

とある女性を覗いてみよう。

 

 

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”ピロン♪”

 

スマホ画面に表示された

メッセージを確認する。

 

 

さつき:

「今日は18時集合だからね!

遅刻厳禁!(`^´)ちゃーんと

可愛い格好してくるんだよ!」

 

 

 

 

「もう、わかってるって...」

 

鏡に映った自分と目が合う。

 

「今日こそ、頑張るんだから」

 

仕事ばかりに気をとられ、

気づけば20代も半ば。

 

テレビでは

新年出かけたいデートスポット特集”

と題して、私よりも若い子たちが

キャッキャ騒いで楽しそうだ。

 

最後に彼氏がいたのは

いつだったっけ。

インドアでゲームヲタクの私は、

愛想を尽かされフラれてしまった。

 

「俺がいなくたって、

ゲームがあれば生きていけんだろ」

だっけな。そんな感じの

捨てゼリフだった気がする。

 

「ミサは大食いだし、服もだせぇし、

もっと女らしくしたほうがいいぞ」

 

うるさい。女らしさってなんだ。

これでも私はちゃんと女として

25年間生きてきた。

 

 

 

今日はさつきが組んでくれた合コン。

ちょっとそういうのは苦手で...

なんて避けてきたけど、

もうそんなことも言ってられない。

このチャンスを逃したら、

去年みたく一人の部屋でツリーだけが

ピカピカ光るクリスマスの再来だ。

買ったゲームは当然その日に全クリ。

あぁ、さよならメリクリ。

 

 

「モテる女に共通する特徴」

「可愛い子は絶対にしない言動」

 

ネットで下調べは万全。

いざ、戦場へ。

 

男女3対3のタッグマッチ

...じゃない。これは個人戦だ。

ボロは絶対に出さない。

 

席に着くなり、

真正面の男性と目が合った。

 

か、カッコいい...。

どタイプ、どストライク。

防御が甘かったか。

いきなりライフルで

打ちぬかれてしまった。

 

「今日は楽しみましょー!

かんぱーい!」

 

早々に自己紹介が終わり、

フリートークに入る。

先手を打たねば...

速攻こそ最強の攻撃だ。

 

 

「あの...なんてお呼びすれば...」

 

「そんな堅くならないでください!

トシでいいですよ!

...って僕も敬語ですね!」

 

なんて爽やかな笑顔なんだ。

顔はカッコイイし、ワインレッドの

ジャケットを完璧に着こなしている。

 

高すぎる、ステータスが...。

 

「ミサさんは、何か

趣味とかあるんですか?」

 

 

来た。

ここは絶対に

間違ってはいけない分岐だ。

一歩間違えばバッドエンディング

まっしぐらになる。

 

「最近、ボルダリングを始めて...

あ、あと料理教室とかも少々」

 

「すごいですね!料理もできて、

運動もされてて。

ぜひ今度ご一緒にどうです?」

 

壁をのぼる仕草をしながら

爽やかスマイル。

もちろん、ボルダリングなんて

やったことない。

むしろ「ボルダリング」という単語を

スムーズに言えただけでも奇跡。

 

 

「はい!ぜひ!」

 

 

おっと、危ない

断して目の前のピザを

ガツ食いするところだった。

少しづつ、上品に。

 

 

「そろそろ席替えしま~す!

はーい、女性陣ひとつずつずれてー」

 

さつきの声が

終了のゴングに聞こえた。

幸せな時間は幻となって

消えてしまうのか。

他の男性と話していても、

横目でトシさんを気にしてしまう。

 

楽しそうだ。私と

話していたときよりも、全然。

笑い声が耳に届くたび

胸が締め付けられる。

 

やっぱり、私にこういう場は

向いてない...。

 

会もお開きになり、

二次会がどうだとかの

話が聞こえてくる。

 

「あ、あの!私、明日仕事で早いから!

みんなで楽しんできて!」

 

また、逃げてしまった。

街の声も音も、すべて雑音に聞こえる。

 

一人とぼとぼ歩きながら、

ほとんどご飯を食べてなかった

とに気がついた。

 

「お腹、すいたな」

 

目に飛び込んできたラーメン屋さんへ、

吸い込まれるようにして入った。

 

「すみません、ラーメンと

半チャーハン、餃子のセットで」

 

食べたら帰ってゲームでもしよう...。

すると、どこがで聞いたことの

ある声が私を呼んでいる。

 

「ミサさん、ご一緒しても

いいですか?」

 

カウンター席、私の隣に

まさかのトシさん。

 

「えぇぇぇぇ!どうして...?」

 

「いや、なんかミサさん帰り際

元気なさそうだったんで、

体調悪いってウソついて。

いで追いかけたらこのお店に

入っていくのが見えたので...」

 

私を、追いかけに来てくれた…?

 

「お待たせしましたー。

ラーメンと半チャーハン、

餃子のセットでーす」

 

終わった。

こんな姿を見られたらもう
ゲームオーバーだ。

 

「あれ、ミサさん

めっちゃ食べるんですね!

僕、いっぱい食べる人

好きですよ!」

 

「そ、そうですよね!

そりゃ食べちゃいますよ!

だって、ご飯が

美味しいんですもん!

小食とか言ってる人の

気がしれません!」

 

「ミサさんの言う通りですね!

すみませーん、僕も

同じのくださーい!」

 

ウソ、みたいだ...。

自分を偽らなくたって、

そんな私が良いと言ってくれる

人がいるんだ。

私、ありのままでいいんだ。

 

食べ終わり、店を出る。

 

「トシさん!また、一緒に...

ご飯食べに行ってくれますか?」

 

「もちろんです!ぜひ、また!」

今日一番の笑顔で手を振った。

トシさんが見えなくなるまで

いつまでも、いつまでも。

 

 

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ようやく家に着き、

ワイレッドのジャケットを脱いで

ハンガーにかける。

 

すぐさま上下スウェットになり、

PCのオンラインゲームに

ログインする。

 

「ふぅ~。

あんなに食べたから気持ち悪い...。

小食だと言ったら嫌われると思って

頑張りすぎた...」

 

昨日買ったばかりのジャケットは、

パーカーだらけのクローゼットの中で

ひときわ存在感を放っていた。

 

ボルダリング...練習しないとな」

 

 

 

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『自己呈示』

...コンプレックスを隠すための

戦略的な対人行為。

 

 

 

本当の姿をさらけ出すことで

吉と出るか、凶と出るか。