365日のストーリー

忘れたくないあの1ページ

「飛び立つ、この道から」

 

 

 

「おーい、もうみんな書いたかー?

書けたら前に回せよー」

 

 

卒業後の進路調査。

正直、進路のことはそんなに深く考えていなかった。

高校生活はあっという間で、気がつけば

大きな分かれ道に立たされていた。

 

 

お昼休み。食堂ではいつものメンバーで

女子会が開かれている。

 

 

 

「この先の人生を決める進路だー、とか言われても、

やりたいことなんて分かんないよー」

 

「そうそう。とりあえずは大学進学かなー

この学校、そこそこ新学校だから待遇良いし」

 

「曜子は?進路どうするの?」

 

「私は…市役所で働こうかと…」

 

「え、公務員!?大学行かないの?」

 

「うん。やりたいこととか特にないし、

ただ流れで大学に行くくらいなら、

お父さんとお母さんのためにも

自分で働こうかなーって」

 

「でも、それでどうして公務員なの?

だって試験とかあるんだよ?」

 

「そんなに勉強は得意な方じゃないけど…

どうせなら、一発頑張ってみたくて」

 

「まー、曜子は一回決めたら

周りが何を言おうと曲げないからね」

 

「試験って9月じゃない?

もうあと1年もないよね?」

 

「そうだね…

でも私、決めたから!

やるよ、頑張るよ!」

 

 

 

 

親には特に相談せず、この進路に決めた。

私が自分で決めたんだ。頑張るって、決めたんだ。

 

その日の帰りに、片っ端から参考書を買い込んだ。

公務員の試験は、学校では習わない特殊な

問題が出るそうだ。

普段からそこまで成績が良い訳じゃない私は、

とにかく多くの知識を詰め込むしかない。

 

朝は早く起きて、学校に行く前に勉強。

昼間は学校で、授業中も合間を縫って参考書を進める。

家に帰ったらお店の手伝い。

ウチは、小さな商店街の漬け物屋。

昔からずっと続いているこのお店は、

お父さんとお母さんの2人でやっていて

いつも忙しそうにしている。

だから私も、夕食前の一番忙しい時間帯は

お店に出て手伝うのが日課。

そして、夜からまた勉強。

 

 

 

 

この毎日の繰り返しでどんどん時は進み、

もうすぐ梅雨入り。

 

そして、試験前の大事な模試が控えていた。 

 

 

「ここは大事な力試しだ。

大丈夫、きっと大丈夫」

 

 

ペンを持つ手が震える。

何度も何度も、自分に言い聞かせる。 

深呼吸をして、必死に落ち着こうとした。

 

「それでは、始めてください」

 

試験管の合図で、一斉に教室中に鳴り響く

問題用紙をめくる音。

 

蓄えてきた知識を頼りに、

時間が許す限りペンを走らせた。

 

 

 

 

 

 

 

結果は…

 

 

 

惨敗。

 

 

目標点まではまだまだ遠い

結果に終わった。

 

 

次の日の学校は、

仮病を使って休んでしまった。

 

部屋のベッドから天井を眺めていると、

あの日のことが蘇ってくる。

完全に周りの空気に飲まれてしまった。

 

辺りは、すっかり暗くなり始めている。

 

 

「もう、こんな時間…」

 

あんなに毎日共にしていた参考書は、

なかなか手に取れないでいた。

 

少しでも気分を紛らわすために外に出た。

いつも自転車で通っている道を、

ただただ、何も考えず歩いていた。

 

買った参考書でカゴの中がパンパンになって、

重い自転車を必死にこいでいた数ヶ月前が

懐かしく感じる。

 

 

今は何も持っていないのに、

足はなかなか前に進んでくれない。

 

 

「あ、いた!おーい!曜子ー!」

 

聞き慣れた声が耳に飛び込んできた。

 

「模試の結果が悪かったんだって?

先生から聞いたよ?」

 

「まーったく、だからって学校休むこと

ないでしょーよ」

 

いつも私のそばにいる友達たちが、

私を心配して来てくれた。

 

「ごめん…」

 

「曜子が謝ること何もないでしょ。

ウチらは知ってんだから、曜子が今まで

どれだけ頑張ってきたかって」

 

頑張った、頑張った。

でも、頑張ったから認められる賞なんか

試験にはない。

 

「それでも、結果は全然ダメだったんだよ」

 

「じゃあどうするの?もう辞めちゃうの?」

 

「辞めたくない!でも、怖いんだよ。

うまくいかなかったらどうしようって考えたら、

模試のときのことばっかり思い出して…」

 

 

「負けちゃいけないのは、自分にだよ。

試験でも、他の受験してる人でもなくて、

自分に負けちゃダメだよ!

曜子を一番支えてあげられるのは、

自分自身なんだから」

 

 

「うん…うん」

 

「大丈夫、曜子なら大丈夫。

自分の弱さに気づけたんだから、

もう模試のときのようにはならないよ。

だから、後ろを振り返るのはもう終わり!

前だけ見て走りな!

それが曜子の持ち味でしょ?」

 

 

「うん、うん!」

 

 

友達と別れて、商店街に帰ってくると、

いつもお店に来てくれる

近所のお兄さんがいた。

 

 

「曜子ちゃん、こんばんは」

 

「あれ、翔ちゃん!いらっしゃい!

珍しいね、こんな時間に」

 

「いや、曜子ちゃん

試験勉強、頑張ってるって聞いて」

 

「え、どうして知ってるの?」

 

「あ、あぁ…風のウワサで…ね!

頑張ってな!曜子ちゃんなら

絶対大丈夫だ!後悔しないように

準備、しっかりな」

 

 

「翔ちゃん…ありがとう」

 

 

家に帰ると、お母さんが待っていた。

 

「曜子、なーに暗い顔してんのよ!

あんたなら大丈夫よ。

負けん気と明るさが

我が家の取り柄なんだから。

思い切ってやりなさい!」

 

模試の結果を伝えていないのに。

親は、子供のことなら

なんでもお見通しだ。

 

色んな人からの応援は、

プレッシャーなんかじゃない。

そんなことよりも、

自分ひとりで孤独との闘いの方が

よっぽどツラい。

 

全ての声を、期待を、想いを、

私の原動力に変えるんだ。
 

 

あたたかい言葉をかけてくれる人が

こんなにいると、

ネガティブなんて抱えるヒマもなくなる。

 

 

「絶対…リベンジしてやる!」

 

 

 

 

 

 

 

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試験当日の朝。

 

 

 

 

 

やれることは全部やった、やり切った。

準備は万端。

手に持ったお守りを

ギュッと力強く握りしめる。

 

 

 

「よし、どっからでもかかってこい!」

 

キレイな青空と心地よい風は、

私を後押ししてくれてるみたいだ。

 

 

 

試験会場へ向かう。

自転車をこぐスピードは、どんどん上がっていく。

もっと早く、もっと早く。

 

「飛べる、私なら絶対にやれる」

 

 

ここで終わりなんかじゃない。

ここから始まるんだ。

私の道は続いて行く。

どこまでも、どこまでも。

 

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写真提供 [Twitter ‪@rari_shame‬ ]