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365日のストーリー

忘れたくないあの1ページ

「受け継がれていくもの」

 

 

人の記憶はもろくて、昔の記憶は

新しいものに、どんどん上書きされていく。

あのとき感じたことも、見た風景も、

歳を重ねるごとに曖昧になっていく。

 

引き出しの奥の方にしまわれた記憶は、

なかなか取り出すことができない。

でも、写真という存在が

僕たちの一瞬、一瞬を思い出させてくれる。

 

 

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「ほーら!勇太!走ったら危ないでしょ!」

 

「ねえ!あれのりたい!上までいって、

下までビューンっておちるやつ!」

 

 

「お、勇太!怖くないのか!

お父さんと一緒に乗るか?」

 

「のーる!のーる!」

 

 

日曜日の遊園地は、

家族連れでいっぱい。

今まで見たこともないような景色が

目の前に広がっていて、初めての遊園地に

ワクワクが止まらなかった。

 

風船を配っている着ぐるみの動物。

ぐるぐる回ったり、水がかかったりする、

色んな乗り物。

まるで絵本の中の世界みたい。

 

「勇太、楽しそうだったねー!

どうだった?怖くなかった?」

 

「ぜんっぜんこわくなかった!

ママもいっしょにのろーよー」

 

「ほら…パパが、もっかい乗りたいって

言ってる!パパと行ってらっしゃい!」 

 

「おい、あれ…なかなかすごいぞ…。

ちょっと…気持ち悪いんだけど」

 

「パパ、いこいこ!はーやーくー!」

 

「お、おう!行くかー!」

 

 

結局、そのあとも連続で乗って計3回。

父の顔色は真っ青。

 

 

「つぎ!あれがいいー!

たかいたかいところまでいくやつ!」

 

「勇太、あれは観覧車って言うの。

ママも一緒、みんなで乗ろうね」

 

 

頂上に向かってゆっくりと進む。

人なんて米粒みたく小さく見える。

見える景色はどんどん広がって、

遠い遠い先まで見渡せる。

 

 

「おうちどこー?あっちー?」

 

 

「さすがにおうちまでは見えないなー。

でも、あっちの方だよ。あの辺かな!」

 

 

「わぁー…」

 

 

観覧車から見た夕陽は、

絵に描いたような綺麗さだった。

 

 

「ゆうえんち、またこよーね!

ぜーったい、またこよーね!」

 

「勇太はパパよりも男らしかったもんな!

そうだな、また来ような!」

 

 

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そういえば大学生の頃、彼女とのデートでも

この遊園地に行ったんだっけか。

 

 

 

 

 

 

 

 

「もうっ!だからお化け屋敷は

嫌だって言ったのに!」

 

 

「ウソつけ!途中まで

ノリノリだったじゃねーか!」

 

 

「ちがうよ!だって勇太くんが

ぜんっぜん怖くないから大丈夫って!」

 

 

「悪かった悪かった!

もう出たんだから、いい加減泣きやめって」

 

 

 

 

 

 

 

「クレープ食べたい…」

 

 

「え、なに?」

 

 

「クレープ食べたら元気出る」

 

 

「わーかったよ!

買ってくりゃあいいのな!」

 

 

「はーい!急いでねー!」

 

 

「ったく…子どもじゃねーんだから」

 

 

クレープ屋さんの近くで、

着ぐるみの動物が、子どもたちに

風船を配っている。

 

自分が子どもの頃は、あんなに大きく見えたのに。

今では、ほとんど背が変わらなかった。

 

 

「俺、でっかくなってんだな…

ってやっべ!急いで戻んなきゃ!」

 

 

”クレープ食べたら元気出る”

という現象は本当に起きて、

彼女は満足そうな顔をしながら

ほうばっている。

 

 

 

「もう夕方か…それ食べ終わって、

観覧車乗ったら帰るかー」

 

 

「早いね!もう薄暗くなってきた。

うん、そうしよー!」

 

 

観覧車から見る夕陽は、

子どもの頃に見たのと同じ

綺麗なオレンジ色で。

どこに実家があるかを

探してみたりして。

 

 

 

カップルで観覧車に乗ったら…

 

 

やっぱり頂上でキスとか

するものなのか。

 

ちょっぴり緊張して

彼女の顔を見たら、

 

 

「あ、そういうロマンチックさは別に

いらないでーす。それよりも、

美味しい夜ご飯が食べたいでーす」

 

 

考えは全て見透かされていた。

 

 

あまりに秒速だったツッコミに、

思わず2人で笑ってしまった。

 

そんな2人だけの空気感が、

お互い心地良かったんだと思う。

 

 

 

その彼女が、

今では僕の奥さん。

 

 

生まれた子どもが少し大きくなって、

今日は家族3人で遊園地。

 

 

 

「パパ!じぇっとこーすたー!

もっかい、もっかい!」

 

 

「ふぇー、もっかい行くのかー。

次で5回目だぞ…ほら、ママ!

選手交代、頼むよ!」

 

 

「ゆーすけは、パパが良いんだって!

はい、選手交代は認められません!」

 

「みとめられませんっ!」

 

ゆーすけもママの真似をして、

手で大きなバツを作っている。

 

 

「その笑顔にはかなわん!

よし、ゆーすけ!もっかい行くぞ!」

 

 

 

 

未来へのバトンは、次へ次へと渡され、

こうして受け継がれていく。

 

 

日も暮れてきて、いっぱい遊んだゆーすけは

ママそっくりの満足そうな顔をしてる。

 

 

ゆーすけを真ん中に、

両手をパパとママとで繋いで歩いた。

 

 

子どもの頃の記憶…

ゆーすけが大人になっても

思い出せるように、

いっぱい写真撮ってやらなきゃな。

 

 

 

 

 

 

 

「また来るよ」

 

   

 

 

 

 

 

夕陽で照らされた観覧車に、

別れと約束を交わした。

 

 

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写真提供 [Twitter @azupon_pon]