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365日のストーリー

忘れたくないあの1ページ

「ただ、あなただけに」

 

 

 

- 住んでいる場所も、名前も知らない

   大切なあなたへ。

   私の言葉は、届いていますか? -

 

 

  

 

 

 

 

私は小さい頃から絵を描くのが好きで、

小学生のときも、中学生のときも、

時間があれば絵を描いていた。

 

高校生も半ばになった頃、絵を描くことを

仕事にしたいと思うようになった。

 

これからもずっと、

私の好きなことで生きて行きたい。

 

 

 

思いきって両親に相談したら、

「なんでも挑戦してみなさい」

と言ってくれた。

 

両親の後押しもあって、卒業後は

アルバイトをしながら

絵を描き続けることに決めた。

 

ここから先は険しい道。

そんなことは分かってる。

だから、ただ絵を描いて

満足するのはもう終わり。

色んな人に見てもらってこそ

意味があるんだ。

 

 

すぐさまSNSに登録して、

タブレットで描いたイラストを

公開していくことに決めた。

 

 

 

 

「ふうー、終わったー!」

 

記念すべき最初の更新は

ちょっぴり照れくさくもありながら、

ここから始まる期待感でもいっぱいだった。

 

「まぁ、最初はこんな感じだよね!」

 

 

更新していくたびに、

ほんの少しずつでも見てくれる人が

増えていくのが、たまらなく嬉しかった。

 

 

携帯が鳴り、通知が来る。

 

 

カメラで写真を撮っている

男性からだった。

顔が見えないプロフィールからでも、

爽やかな印象が伝わってくる。

 

 

「わぁ、素敵…」

 

 

まるで私もそこにいるみたいだ。

その一枚一枚に

心を打たれてしまった。

 

 

 

 

 

− 素敵なお写真ですね!

    感動しました! −

 

 

 

 

 

思いきってメッセージを

送ると、すぐに返事がきた。

 

 

 

 

− そう言ってもらえると

    励みになります。

    絵を描いていらっしゃるんですね。

    僕の何千倍も素敵ですよ。

    これからもそっと、応援しています。 − 

 

 

 

 

初めてこんな言葉をもらった。

嬉しいを通り越して、感動してしまった。

 

 

それからも、多くのやりとりを

するわけでもなく、

ただ、お互いの投稿に言葉を添える。

 

 

− 海、行ったんですね!(*'▽'*)

   私の家に近くにも海があるんですよ!

   綺麗なオレンジ色の夕陽、

   とっても素敵です! −

 

 

 

− 若い男女の初々しい感じが

   伝わってくる素敵な絵です。

   寒い日が続きます。

   遅くまで頑張りすぎて

   体調を崩さぬよう、お気をつけて。 −

 

 

 

− 冬の良さがいーっぱい詰まった、

   心温まるお写真ですね!

   私も頑張ります!( ^ω^ ) −

 

 

− どんどん絵が上達していますね。

   今日も癒しをありがとう。

   目の疲れには、蒸気のアイマスクが

   良いみたいです。

   無理はなさらず、次も楽しみにしています。 −

 

 

 

いつも温かくて、優しい言葉を私にくれる。

 

ネットだろうとなんだろうと関係ない。

私に向けられたまっすぐな言葉は、

ちゃんとここまで届いてる。

 

 

 

 

 

そんなやりとりを

繰り返しているうちに、

思ってはいけない想いが募っていく。

 

 

 

 

 

 

それから少し経って、

突然あの人の更新は止まってしまった。

同時に、私へのメッセージも

送られることはなくなった。

 

夜も更けた頃、イラストを描き終えて

部屋でひとり、携帯を見つめる。

 

 

 

「会いたいなぁ…」

 

 

ネットで知り合った人と

会うことなんて、

今まで一度も考えたことはなかった。

 

でも、あの人の写真、

あの人の言葉から伝わるものは

あまりに綺麗すぎて。

 

そっと、メッセージを打ちこむ。

 

 

 

 

- 良かったら、お会いできませんか?|

 

 

 

 

 

- 良かったら、お会いできま|

 

 

 

 

 

- 良かっ|

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふっと我に返り、打ちこんだ文字を

急いで消去する。

 

 

「なななにをしてるんだ、私は」

 

 

文字は消えても、

この想いは消えてくれない。

 

 

どこかで偶然、会えたりしないものか。

いや、街ですれ違ったとしても、

お互いの顔は分からない。

 

 

毎日感じていた温もりがなくなって、

ただただ寂しく、携帯を見つめることしか

出来なかった。

 

 

 

 

 

 

あの人の更新が止まってから

2週間が経った。

 

 

家の近くの海を眺めながら、

あの人が撮っていた写真を思い出す。

 

 

「綺麗だったなぁ…」

 

 

似ている景色を見るたびに、

つい思い出してしまう。

 

 

 

すると、携帯に1件の通知が来た。

 

 

− お久しぶりです。

   メッセージ送れなくてごめんなさい。

   突然の決定だったもので、

   準備に追われていました。

   このたび、個展を開催させて

   もらえることになりました。

   もし良かったら…来てもらえませんか ?

   ぜひ、見てほしいんです。 −

 

 

「ウソ…」

 

 

思わず飛び上がって、危なく

携帯を落としそうになった。

 

 

 

「返事…返事しなくちゃ!」

 

 

 

− お久しぶりです!

   ぜひ!ぜひ行きます(*'▽'*)

   素敵なお写真がたくさん見れるの

   楽しみにしてます!

   

   あと…会えるのも楽しみです。 −

 

 

開催場所の確認もしていないのに、

誤字がないか、

文章がおかしくないか、

それだけを何度も何度も読み返して、

全力で送信ボタンを押した。

 

 

 

会える、あの人に会える。

 

あぁ、どうしよう

伝えたいことがたくさんある。

 

 

 

会ったらまず

ありがとうを言って、

 

 

あなたの写真が

大好きだと伝えよう。

 

 

 

そしたらあの人は、

なんて言ってくれるだろう。

 

 

 

 

「ちゃんと…笑って言えるかな」

 

 

 

 

ふと、空を見上げた。

 

 

どれほど離れているのか

分からなかったあの人が、

少し近くに感じた。

 

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写真提供 [Twitter ‪@yuncamera_25 ]