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365日のストーリー

忘れたくないあの1ページ

「もしもこの世界が夢だったなら」

 

 

 

「私、マサくんのことが好き…です」

 

 

「え…」

 

 

 

告白、された。

思ってもみなかった、突然のことだった。

 

 

高校3年生に上がり、2年連続で

同じクラスになったときは、

走り出したくなるくらいに嬉しかった。

 

 

クラスでは普通に話すし、

当然連絡先も知っていたから、

何度かやり取りをしたこともあった。

 

 

でも、その程度だと思っていた。

密かに想いを寄せていたのが、

彼女もだったなんて…。

 

 

街の音は何も聞こえなくなり、

彼女の声だけが耳に届いた。

 

 

「あの…返事、待ってるんだけどな」

 

 

「あ、わりぃ!実は俺も…

ずっと前からみなみのことが気になってて…

ってこんなこと言っても

信じてもらえないよな」 

 

 

「嬉しい…でも、気づいてたよ。

マサくんが私を気にしてくれてたこと」

 

 

「え、そうなの?

うわー、すげー恥ずかしいじゃん!」

 

 

「マサくんが何も言ってくれないから、

一回きりの高校生活がこのまま

終わっちゃうなーって」

 

 

「ありがとう…なのかな。

こういうときって、

何て言っていいか分からないな」

 

 

「ちゃーんと、マサくんの口からも

聞かせてほしいな、私への気持ち」

 

 

「お、俺もみなみのことが、好き…です。

お付き合い、お願いします」

 

 

「うん!よろしくね!」

 

 

小さな声で” 嬉しい ”と

彼女が呟いたのが聞こえた。

 

 

こんな可愛い子と付き合えるなんて

夢じゃないのか…いや、夢なんてもっと

ヘンテコなものばっかりだ。

 

現実…なんだ。

こうして、俺たちの付き合いは始まった。

 

 

 

 

夏は2人で祭りに行って、花火を見て。

浴衣姿はあまりにも可愛いすぎて。

 

 

 

プールに行ったときもそうだ。

水着姿の彼女は眩しすぎて、

なかなか直視できなかった。

 

 

 

文化祭では、一緒に校内を回ったりして。

こんなに可愛い彼女を連れていることに、

誇らしくも感じた。

 

 

 

クリスマスはイルミネーションを見に行って。

プレゼントは水色のマフラーをもらった。

みなみが手編みで作ってくれたものだ。

冬の彼女は、また一段と可愛く見えた。

 

 

そして年が明け、初詣に行った。

 

 

「あ、そういえばマフラーありがとな!

すげーあったけーのな、これ!」

 


「マサくんがそう言ってくれると、

一生懸命作った甲斐があるよ!」

 

 

少し、静かな時間が流れる。

 

 

「もうすぐ卒業かー…

あっという間だったなー高校生活」

 

 

「あのまま今日まで過ごさなくて良かった。

勇気出して、マサくんに想いを伝えて良かった」

 

 

「本当だな。みなみっていう可愛い彼女がいて、

俺は幸せだよ」

 

 

「私も、幸せ!

でも卒業したら…そんなに

会えなくなっちゃうね」

 

 

「そうだな…みなみは

春から大学生、俺は社会人だからな」

 

 

「うん…」

 

 

「大丈夫だよ!休みは全然あるんだし!」

 

 

「会いにきてよね!」

 

 

  「おう!」

 

 

 

卒業式を迎え、2人はお互いの

進路へと歩いていった。

 

 

 

 

 

 

” お疲れさま!(*'▽'*)

 会社はどう?変な会社じゃなかった?

 ゆっくり休んでね! ”

 

 

” 変な会社ってなんだよ!笑

  みんな良い人だし、結構楽しいよ! ”

 

 

文章だけのやり取りが増えていく。

そんなのは分かりきっていたことだ。

 

ただ、日が経つにつれて

マサくんの返信スピードは遅くなり、

2日に1回、3日に1回と

間隔が広くなっていった。

 

 

「では、歓迎会ということで、

新入社員のこれからの活躍を願って…

かんぱーい!」

 

 

「かんぱーい!」

 

 

「岡田くんは、まだお酒ダメよ!」

 

「わ、分かってますよ!

ウーロン茶で我慢します!」

 

3つ上の先輩社員、柚月さん。

少し明るめで肩まである長い髪。

パッチリとした目に素敵な笑顔。

とても綺麗な人だ。社会って素晴らしい。

 

 

 

「おい岡田!お前に柚月ちゃんは

5年はえーわ!」

 

 

「え、なんですか!

そんなつもりじゃ…」

 

 

「誤魔化したってムダだぞー

さっきからずーっと、柚月ちゃんのこと

ばっかり見てたじゃねーか!

柚月ちゃんも、あんまり新人を

甘やかしちゃダメだ!」

 

 

「えー、私そんな風に見えました?

課長、もうお酒が回ってきてるんじゃ

ないですか?」

 

 

「そ、そうですよ!

勘弁してくださいよ!」

 

 

社会に出ると、何もかもが新鮮で

キラキラして見えた…

 

 

のは、ほんのわずかな錯覚で、

すぐに大きくひっくり返った。

 

 

働くってのは大変なことで、

毎日毎日、疲れて帰るだけの日々。

休日にも午後から勉強会があって、

そのあとは決まって飲み会。

 

浮かれてたのは、新鮮味があった最初だけで、

徐々に我に返り初めた。

 

体も心も、ホッと一息

つけるところを求めていた。

 

 

クタクタになって家に帰る。

布団に寝転がりながら携帯を見ると、

未読のままにしていた

みなみからの連絡が溜まっていた。

 

 

「俺、こんなに返してなかったのか」

 

今日はいいか、明日でいいやで、

こんなにも日にちが経っていることに

気がつかなかった。

 

メッセージを開くと、

そこには彼女の優しさが溢れていた。

 

 

” 今日も遅くまでお仕事かな?

  身体こわさないようにね!

  ゆっくり休んでね! ”

 

 

” 今日もお疲れさま!

  次の休みはいつなのかな…?

  声も聞きたいし、会いたいけど…

  マサくん頑張ってるから我慢する!

  私もがんばるからね! ”

 

 

 

「なにをやってんだ、俺は」

 

 

社会という新しい世界の

何もかもに目移りをして、

自分のことしか考えないで…

 

それでもみなみは、こんなにも

俺のことを考えてくれていた。

 

 

少し前から、みなみからの連絡も

止まっていた。

連絡しよう、次の休みに会いに行こう。

俺が稼いだ金で、みなみの好きなものを

たくさん食わしてやろう。

 

もしかしたら…

まだ起きてるかもしれない。

 

急いでみなみに電話をかける。

 

 

『もしもし?』

 

 

「あ、みなみ!良かった、

まだ起きてたか!

全然連絡しなくてごめんな…。

あのさ、来週の水曜の晩って

時間あるか?

俺、勉強会終わったら

飲み会断るからさ、夜空けられるからよ!

みなみの好きなものでも食べに…」

 

『ごめんなさい…』

 

 

「そっか、水曜は都合悪いか!

じゃあ土曜の夜は…」

 

『私、他に好きな人ができたの。

もう…マサくんのことは

待ってられなかった…

終わりにしよ、私たち』

 

 

「お、おい…待ってくれよ!

1回ちゃんと会って話そう!」

 

 

『ごめんなさい。

もう連絡してきても出ないから、

して来ないでね。さようなら』

 

 

 

 

電話が切れて、みなみの

楽しそうに笑っていた顔が浮かんだ。 

 

 

 

 

なんで気づかなかった。

いや、気づけなかった。

自分が変わっていってたことに。

 

自分のことなんて、

周りが言ってくれなきゃ

なんにも分かりゃしない。

 

 

 

気持ちが薄れている途中なら、

もしかしたら取り返せるかもしれない。

 

だけど、

 

一度離れてしまった心は、

なかなか元には戻らない。

 

 

 

 

 

 

どれだけ自分はバカだと悔やんでも、

なんであのときにと責め立てても、

戻せない、時間は戻らない。

 

後悔なんて、何の意味も持たない。

 

 

 

 

当たり前だと思っていると、

壊れたときの怖さを

想像することもできない。

 

 

色のある世界は、

時として一瞬で崩れ落ちる。

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写真提供 [Twitter ‪@kurosanpa ‬]