365日のストーリー

忘れたくないあの1ページ

「越えられなくても超えていけ」

 

 

 

 

 

  

「ミナ、コウキ!おもちゃ片づけろー

飯にすんぞー」

 

 

 

『はぁーーい』

 

 

 

「よーし、良い返事だ。

コウキはご飯運ぶのも手伝えよー」

 

 

「ミナも、ミナもやる!」

 

 

「お!偉いな!

じゃあ…みんなのお茶碗

運んでもらおうかな」

 

 

「ぼく、ママよんでくる!」

 

 

「待て待て。

お兄ちゃんが行くから、コウキは

ご飯食べれる準備しといてな」

 

 

「わかったー!」

 

 

 

我が家には、父親がいない。

母親はここ数年体調を崩しがちで、

まともに家事もできない状態。

 

まだ小学生に上がったばかりのコウキと、

幼いミナの面倒も見つつ、

家の大抵のことは長男の俺がやっている。

 

 

「颯太(ソウタ)、あなたもまだ

全然遊びたい年頃だろうに…ごめんね」

 

 

「なんで母ちゃんが謝るんだよ。

こーなっちまったんだから

もう仕方ないって。

そんなことより、早く体調治さねーと」

 

 

「おにーちゃん!

てれび!かすみちゃん出てたよ!

 

 

「え、マジで?CM?」

 

 

「わかんなーい。なにかしゃべってた!」

 

 

「かすみちゃんこないのー?」

 

 

「佳純は…忙しいからな!

落ち着いたら遊んでもらおーな!」

 

 

「やったぁー!」

 

 

 

 

2人を寝かしつけ、母ちゃんも無事眠りに

ついたのを確認して、眠りについた。

 

 

仮眠程度の睡眠を取って、みんなを起こさないよう

音を立てずに、そっと夜明け前の外へ出かける。

 

 

新聞配達の仕事場へ向かおうとした時、

同じタイミングで、隣の家から人が出てきた。

 

 

「あれ、颯ちゃん!」

 

 

「佳純!?

こんな早くに家出てんのか?」

 

 

「今日はレッスンとか…打ち合わせとか

色々あってね…

集合早いし、ここから遠いから。

颯ちゃんはいつもこんなに早いの?」

 

 

「まぁ…このぐらいだな。

早朝の新聞配達が終わったら、

夕方まで工場だからな」

 

 

「颯ちゃん、昔からあんまり身体

丈夫じゃないんだから。

くれぐれも倒れたりしないでよね」

 

 

「いつの話してんだよ…

それ、小学校低学年とかの話だろ?

俺達もう22だぞ?」

 

 

「そっか、もうそんなに経つんだね」

 

 

「あ、そういえば、コウキが昨日

テレビ観てて、佳純が出てるって

騒いでたぞ。

もしかして…CMとか決まったのか!?」

 

 

「だったら良いんだけどね…

ドラマ、じゃないかな?生徒役で

ひとことセリフもらったの」

 

 

「そうだったのか!

うわー、観たかったなー」

 

 

「私いま、颯ちゃんの

目の前にいるじゃん」

 

 

「いや、それとこれとは

違うんだって!佳純が小さい頃からの

夢に向かってる姿を、観たかったんだよ」

 

 

 

 

 

 

幼稚園の頃から一緒にいる佳純は、

主演で映画に出ることが夢だと、

ずっと言っていた。

 

 

少しずつ、ほんの少しずつでも、

ちゃんと階段を上がってる。

 

 

「やべ、俺遅刻しちまう!

今度さ、時間あるとき俺ん家に

顔出してくれよ!

コウキとミナが喜ぶからさ」

 

 

「私も2人に会いたい!

でも来月にオーディションがあって、

その準備とかで今月帰り遅いからさ…

また連絡するね!」

 

 

「おぉ!オーディションか!

しっかり準備しろよ、頑張れ!」

 

 

「うん!」

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

それから、1ヶ月が経った頃。

 

 

 

 

 

 

 

「ねーねー、かすみちゃんはー?

いつ来るのー?」

 

 

「確かに、あいつ連絡するとか言って

全然こねーな」

 

 

「ぼく、きのう

かすみちゃん見た!」

 

 

「そうなのか?どこで見たんだ?

ウチの前か?」

 

 

 

「うん!でもかすみちゃん…

かなしそうだった…」

 

 

「悲しそう…?

オーディションがダメだったのか…

いや、確か今日か明日だったような

気がしたんだけどな…」

 

 

 

「おにーちゃん、かすみちゃんに

来て!ってもっかい言ってね!」

 

「あぁ、きつく言っとくな!」

 

 

 

次の日の朝、いつもように

まだ眠っている薄暗い町へと 

出かけていくと、

パジャマ姿の佳純がいた。

 

 

「おい、佳純!そんな格好で

なにしてんだよ」

 

 

「あ、颯ちゃん…」

 

 

手に持っていたのは、

雑誌や新聞が積まれたものだった。

 

 

よく見ると、一番上には

ずっと練習していた台本が乗っていた。

 

 

「佳純…それ」

 

 

「あ、これね…もう良いの」

 

 

「良いことないだろ!

ずっと頑張ってきたじゃねーか!

こんなとこで投げ出すのかよ!」

 

  

「お母さんがね、もうこの歳なんだから

ちゃんと会社に勤めなさいって」

 

 

 

「お母さんに言われたから、辞めんのか?」

 

 

 

「やっぱり、心配かけたくないし…

ほら、やっぱりこれだけやってきたけど、

大きな結果は出てないから。

きっと私はダメなんだよ」

 

 

「お母さんのため?俺はこんな生活

してるけどな、一度だって

母ちゃんに言われて人生

決めたことなんかねーぞ。

誰かの為っていうのは、自分の意思で

選んだ道で、周りを幸せにしてやること

なんじゃねーのかよ」

 

 

「でも…」

 

 

「夢中になれることがあるって、

幸せなことなんだぞ。

この間言ってたオーディションは、

ダメ…だったのか?」

 

 

 

「ううん、今日の午前中」

 

 

 

 「マジかよ!なら行ってこい!

まだ間に合う、それから考えるんでも

遅くねーよ!

どうせ辞めるくらいの覚悟は

あったんだろ?

だったら最後、引退試合のつもりで

思いっきりやってこいよ」

  

 

 

「行くつもりなんてなかったから、

全然自信ないよ…」

 

   

「大丈夫だ、あんだけ一生懸命

やってたんだ、身体が覚えてるさ。

ほら、とっとと着替えて行ってこい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

好きなことをしてても、

苦しくなることはある。

 

得意なことをしてても、

うまくいかないことはある。

 

どこに向かっても、必ず壁はやってくる。

 

先に進めず行き詰まったとき、

自分の可能性を決めるのは自分だ。

 

じっとしてたって、

なんにも変わりゃしないんだ。

 

認めない限り、限界なんてない。

 

 

誰かに思いっきり

背中を押してもらったなら、

 

 

 

あとは全力で

目の前の扉をぶっこわせ。

 

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写真提供 [Twitter ‪@76572P]