365日のストーリー

忘れたくないあの1ページ

「変わらないこの今を」

 

 

 

 

 

” もうすぐ着くよ!

悠貴は?どこにいる? ”

 

 

” 俺はもう着いてる!

改札前で待ってるから! ”

 

 

 

 

遠距離恋愛を始めて、

もうすぐ一年になる。

 

今日は、月に一度だけ

大事な人に会える日。

 

 

改札前には、柱にもたれかかりながら

1人で携帯をいじっている男女が

チラホラいる。

 

きっと待ち合わせなのだろう。

会えるまでのこの時間が、

どうしてもそわそわしてしまう。

 

早紀は、もう近くの駅を

通り過ぎたと言っていた。

次の電車に乗ってくるかな。

 

 

 

電車が到着すると、

ホームの階段からはたくさんの

人が改札へと流れ込んでくる。

 

別に、連絡を待っていれば会えるのに、

人混みの中に紛れていないか

必死に探してしまう。

 

 

 

 

 

あ、いた。

 

 

 

その顔を見つけた途端、

この1ヶ月分の寂しさは

一瞬にして吹き飛んでいく。

 

 

 

 

「お待たせ!

あれ、悠貴また少し

背が伸びたんじゃない?」

 

 

「そう…かな?

いや、たぶん気のせいだと思うよ。

早紀こそ、なんか化粧が

濃くなってないか?」

 

 

「うるさい、なってません」

 

 

 

久しぶりに顔を合わせると、

前に会ったときよりも

少し変わったように見える。

 

 

「よし!…どこ行くか!」

 

 

 

「えー、なになに

もしかしてノープラン?」

 

 

「あぁ!もちろんだ!

早紀の行きたいところに行こう」

 

 

 

「いっつもそれじゃん!

んー、じゃあ…美味しいもの

たーーーくさん食べたい!」

 

 

「早紀もいっつもそれだけどな」

 

 

「なんですか?何か言いました?

別にあれから太ってませんけど!」 

 

 

 

「そこは言ってませんが…

よし!美味そうな飯

調べようぜ!」

 

 

 

早紀は、オシャレな場所や、

カップルが行くようなデートスポットに

行きたいとは言ってこない。

 

かなりの確率でご飯を食べたいと言う。

 

 

「うわーーーっ!海鮮丼!

おっきい!美味しそーーー!

ね、もう食べていい?」

 

 

「食べろ食べろ!

たーくさん食べろ!」

 

 

「いっただきまーーーす」

 

「前から気になってたんだけど、

聞いても良いか?」

 

 

「いーよ、なーに?」

 

 

「いや…その、デートいつも

一緒にご飯ばっかで、

早紀は良いのかなーって」

 

 

「好きな人と一緒に食べるご飯って

美味しいじゃん!」

 

 

「まぁ、そりゃ確かにな」

 

 

「私は、美味しいもの食べながら、

ゆっくり悠貴と話してる

この2人の時間が好きだなーって。

あれ、これ言ったこと

なかったっけ?」

 

 

 

 

色んなところに惹かれていく。

好きなところはどんどん増えていく。

 

もし、毎日のように顔を合わせていたら…

嫌いなところが増えて、たくさん

ケンカしたりするのだろうか。

 

 

会う度に想いが膨らんでいく今は、

まったく想像もつかない。

 

 

海鮮丼を食べ終わると、

早紀がデザートを食べたいと言い出した。

近くのお店を調べると、

美味しそうな和のスイーツが食べられる

お店があったので、そこに行くことにした。

 

 

 

あったかいコーヒーと、

冷たいソフトクリームがのったあんみつ。

 

 

「最強だよ…最強の組み合わせだよ!」

 

 

早紀は、キラキラした目で

色んな角度からあんみつを見ながら

感動している。

 

 

いつもデートのプランを立てないのは、

2人でこうやって新しいお店を

見つけられるし、その度に色んな

早紀が見れるから。

 

 

 

デザートを食べ終わった頃には、

もう夕方になろうとしていた。

 

 

 

「早紀、他に行きたいところは?」

 

 

さすがにもう、ご飯関係じゃないとは

思っていたものの、予想もしてない

答えが返ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

「私ね、海に行きたい」

 

 

 

 

 

風はとても冷たく肌にあたってくる。

でも、潮の香りが心地良い。

 

 

「珍しいな、早紀が

海に行きたいなんて」

 

 

 

「会えなかったこの1ヶ月はね、

なんか…とっても寂しかったの。

そしたら、テレビに綺麗な海が

映ってて、今度会ったら一緒に観たいなー

って思ってた」

 

 

「そっか…

ま、そのテレビで観た海みたいに

キレイじゃないけどな」

 

 

冗談交じりに言ったつもりだった。

でも早紀は、いつもみたいに明るく

ツッコんでくることもなく、

ずっと海を眺めている。

 

 

 

 

「海はどこまでも繋がってるから、

一緒に見たら寂しくなくなるかなって

思ってたんだけど...

余計に寂しくなってきちゃったよ」

 

 

 

少し声を震わせながら、

一生懸命に伝えようとしている。

 

 

 

「寂しい気持ちに慣れることって

できないね。

寂しいよ、会えないの、

本当に寂しかった。でも、また…」

 

 

 

楽しみに、楽しみにしていた一日が

もうすぐ終わってしまう。

 

 

今日も楽しかった。

いっぱい食べて、いっぱい笑った。

 

 

「ごめんね、なんか…

私らしくないね!ナシ!今のナシ!」

 

 

「俺、もっともっと頑張るから。

もう少し、あと少しだけの

ガマンにしよう」

 

 

「うん!いーっぱいガマンした分、

いーっぱい幸せしてもらうからね!」

 

 

 

 

 

 

沈んでいく夕日に

今日のお別れをした。

 

 

 

この、一瞬たりとも忘れはしない。

 

 

 

 

忘れたくない日が

もっともっと増えていくように。

 

 

いつか彼女の寂しさを、

全部包みこむ幸せをあげれる

その日まで。

 

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写真提供 [Twitter ‪@usami_1341]