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365日のストーリー

忘れたくないあの1ページ

「雪が降る街に」

 

 

 

 

 

 

 

どうして雪は、

寒い冬に降るんだろう。

 

 

どうして雪は、

こんなにも寂しい気持ちに

させるんだろう。

 

 

 

 

 

「ほーら、拓矢!

なにサボってんの!

そんなんじゃいつまで経っても

終わんないよ!」

 

 

 

「さ、サボってないよ!」

 

 

 

「…にしても、すごい雪だな」

 

 

 

「もう手の感覚ないですよぉー」

 

 

 

大学のサークル仲間みんなで、

地域の雪かきを手伝っている。

 

 

 

東京で雪が降るなんて、

1年の中でほんの数回しかない。

 

雪が積もったもんなら、

小さい子は大騒ぎして外に出る。

 

 

 

 

「ふぅー、とりあえず

こんなもんか」

 

 

「そうだね!少し休憩しよ!」

 

 

「のど乾いたぁー」

 

 

「よし、じゃあジャンケンに負けた2人で

飲み物の買い出しな!」

 

 

「えー、こんな寒いのに

嫌っすよ」

 

 

「つべこべ言うな!

勝ちゃあ良いんだ!勝ちゃあ!

それじゃ、いくぞ。

じゃーんけーん」

 

 

 

 

 

 

 

まだ雪は降り続けている。

この調子だと、明日も雪かきに

なりそうだ。

 

 

雪に残った足跡を辿る。

重たい足を必死に持ち上げ、

一歩一歩、進んで行く。

 

 

「雪って良いよね!

なんかワクワクするよね!」

 

 

子供のような笑顔で、

雪の上を歩いている。

 

 

「雪なんて寒いだけだろー

早く済ませて戻ろー」 

 

 

「じゃーん!見て見て!

ちっちゃい雪だるま!

可愛いでしょー!」

 

 

「佳織さんはいつも元気だねー」 

 

 

「なーにお爺ちゃんみたいなこと

言ってんの!

この雪を目の前にして

平然としてられる

拓矢の神経が分からない!」

 

 

「わー、楽しーい

すごーく楽しーい」

 

 

「なにそれ!

全然感情がこもってない!」

 

 

 

 

足早に歩く佳織さんの後ろをついていく。

ずっと昔から変わらない。

 

近所だった佳織さんとは、

小学生の頃から一緒だ。

 

ピンクのランドセルを背負った

佳織さんの後ろを歩いてた頃が、

懐かしく感じる。

 

 

ひとつ上のお姉さん…

と言っても、昔は名前を

呼び捨てだったのに、

歳を重ねるにつれて恥ずかしくなって

” さん ” 付けになっていた。

 

 

中学の頃も、高校の頃も、

ずっと背中を見てきた。

 

俺を弟のように可愛がってくれる。

少し照れくさくもありながら、

決まって学校の人気者だった

佳織さんの近くにいれたのは、

誇らしくもあった。

 

 

いつからか、その優しくて

明るい性格に惹かれていた。

 

 

でも…。

 

 

 

「佳織、遅かったな。

寒かっただろ。

暖房、あったまってるぞ」

 

 

「うん、ありがと!

私ジャンケン弱いからねー」

 

 

 

佳織さんには、大事な人がいる。

俺なんかじゃない。

別の人だけを見ている。

 

 

俺はその姿を、ただ遠くから

見ていることしか出来ない。

 

 

 

そして、佳織さんは

もうすぐ大学を卒業する。

 

 

 

「あ、拓矢!

帰りちょっと寄り道付き合って!」

 

 

「え、でも俺じゃなくて…」

 

 

「あれ?もしかして今日バイト?」

 

 

「いや、今日はないけど」

 

 

「じゃあ帰るとき、

ちょっと待ってて!」

 

 

 

「う、うん…」

 

 

一緒に帰るなんて、

いつ以来だろう。

 

しかも、俺なんかと

2人きりになっていいのだろうか。

 

 

戸惑う気持ちの中に、

どこか嬉しさがあった。

 

 

雪はみぞれへと変わり、

まだ夕方なのに、辺りはもう薄暗い。

 

 

どうやら佳織さんの寄り道、と言うのは、

大学と家の中間くらいにあるカフェだった。

 

 

「どうしたの、急に。

てか、こんなとこ彼氏さんに

見られたら怒られるんじゃないの?」

 

 

 

「私ね、別れたんだよ」

 

 

「えっ…」

 

 

喜んでいいのか。

いや、良いわけがない。

分かっているのに、

鼓動はどんどん高鳴っていく。

 

 

「ちょっと前にね、フラれちゃったの。

別に喧嘩して…とかじゃないんだけど。

彼ね、大学院に進んで

研究とか色々忙しくなるんだって」

 

 

「でも、さっきもあんなに

仲良さそうにしてたのに」

 

 

「もう別れてるのに優しくされるのは、

ちょっとツラい…。

けど、もうただの友達だからさ!

いちいち気にしてられないよね!」

 

 

明るく話している佳織さんは、

少し寂しそうに見えた。

 

 

「寄り道して話したかったのって…」

 

 

「違う違う!そんなことじゃないよ!

私、春から就職するところの

配属先が決まって、

ここを離れることになったの」

 

 

次から次へと押し寄せてくる現実に、

頭がついていかない。

 

 

「ちょ、ちょっと待って。

色々と突然すぎてパニックなんだけど」

 

 

「そうだよね、ごめんね!

拓矢とは昔から一緒にいたし、

拓矢ママにもたくさん

良くしてもらったからさ!

ちゃんと早めに言わなきゃなって思って」

 

 

 

何が何だか分からなくなった。

人間には、一度に大量の出来事を

処理できる機能は備わってない。

 

 

帰りの電車の中でも、

駅から歩いてるときでも、

うまく顔を見て話せなかった。

 

 

少し遠くを見つめながら

時折見せる寂しそうな表情は、

付き合っていた彼氏のことを

考えているのか。

 

 

想いはどんどん増していく。

 

 

「それじゃ、また明日

学校でね!」

 

 

歩いていく後ろ姿に、

気持ちが声となって飛び出した。

 

 

「佳織さん、待って!」

 

 

突然呼ばれて、

驚いた顔でこちらを振り返る。

 

 

「俺じゃ…ダメかな?

佳織さんを支えたい。

これからも、佳織さんの近くにいたい。

俺、佳織さんのこと

ずっと…」

 

 

「なーに言ってんの!

私、来年からここにいないんだよ?」

 

 

「迎えに行く!

1年後、俺もそっちに行くから!

だから!」

 

 

佳織さんは、優しい笑顔で

俺の頭をなでた。

 

 

「ありがとうね。

でも私、もっかい1人で

頑張ってみようと思うの。

だから拓矢は私なんかじゃなくて、

もっと良い人を追いかけな!」

 

 

 

 

 

 

 

 

誰がどう見ても、

俺はフラれたんだと思う。

 

 

でも、だったらもっと、

ハッキリ言って欲しかった。

 

あの笑顔が忘れられず、

1年が経った。

 

今日もあの日と同じ、

外には雪が舞っている。

 

 

去年まで隣にあった笑顔は

もういない。

 

 

元気にしているだろうか。

俺がもっと頼れる男だったら、

彼女を包んでやれただろうか。

 

 

道端には、小さな雪だるまが

2つ並べてあった。

 

出しかけた携帯を、

かじかんだ手と一緒に

ポケットの奥へと突っ込む。

 

 

今ごろ向こうにも、

この雪は舞っているのかな。

 

きっと子供のような笑顔をしながら、

誰かと一緒にいるんだろうな。

 

 

雪の降る空を見ながら、

忘れられない

ただ1人のことだけを想っていた。

 

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写真提供 [Twitter ‪@_potatooc ]