365日のストーリー

忘れたくないあの1ページ

「未来へ送る手紙 ③」

 

 

 

 

 

 

 

冬の昼下がり。

こんなにも晴れ渡っているのに

空気は冷たい。

 

 

 

春の訪れを待ち遠しく思いながら、

慣れしたんだ街を歩く。

 

 

翔くんと出会って、私の世界には

色が増えた。

 

 

偶然住んでいる場所が

近かったということもあり、

カフェや公園、場所を問わず

顔を合わせる機会が増えていた。

 

 

いつも応援してくれて、

的確なアドバイスをたくさんくれる。

 

 

「どうやったら私の歌を、

もっと多くの人に知ってもらえるかな?」

 

 

「そうだな…

路上で歌っているだけだと、

そこを通りかかった人にしか

知ってもらえないからな…。

ネット上で公開してみるのは

どうだろ?」

 

 

「うんうん、なるほどね」

 

 

 

どちらから言い出した訳でもなく、

お互いを繋いでいた言葉に

いつの間にか敬語はなくなっていた。

 

 

歳が同じだったという共通点も

大きかったのだろう。

 

 

「今の時代は、SNSという場所で

自分をアピールすることはできる。

ただ歌っている動画をアップするのも

いいけど、千春の人間性も

知ってもらうために、

定期的にブログを書いたりするのも

いいかもしれない」

 

 

 

千春、と私の名前を呼んでくれるのも

初めはなんだか照れくさかったけど、

今ではその響きが心地良い。

 

 

 

家族以外に名前で呼んでもらえるのは

とても新鮮で、親近感が湧いて、

一気に距離が縮まるような気がする。

 

 

 

数々のアイデアを、

ひとつひとつ実行してみることにした。

 

 

SNSなどまともにやったことのない私は、

翔くんにあれこれ聞きながら

慣れない手つきで更新をする。

 

 

私の頭の中にある言葉を、

心の中にある想いを、

こうして文字にして発信できる。

 

 

 

徐々に見てくれる人が増えて、

応援のコメントなどが

チラホラ寄せられるようになった。

 

 

 

 

恥ずかしい歌を届ける訳にはいかない。

 

 

来る日も来る日も歌の練習は欠かさず、

喉のケアも怠らず、

思いつくがままにギターを鳴らし、

曲作りもどんどん進めた。

 

 

SNSで告知をするようになってから、

路上ライブを聴きに来てくれる人も

少し増えたように感じる。

 

 

小さな結果を積み重ねることで、

それがどんどん私の自信となっていく。

 

 

 

 

 

 

夜の街から家へ帰ってくると、

荷物が届いていた。

 

 

 

「誰からだろう…」

 

 

 

開けてみると、そこにはたくさんの

野菜や果物が入っていて、

1通の手紙が重ねてあった。

 

 

 

 

 

 

千春

 

元気でやっていますか?

風邪が流行ってるみたいなので、

体調を崩していないか心配です。

 

たくさん食べて、

ちゃんと栄養とりなさいね。

 

千春が頑張ってることなら、

お母さんはずっと応援しています。

でも、あんまり無理しちゃダメよ。

 

たまには顔出しに

帰って来なさい。

 

いつでも待ってるからね。

 

母より

 

 

 

 

「お母さん…」

 

 

 

ダメだ、最近の私はどうも涙もろい。

 

 

泣くのは決して弱いことじゃない。

明日の為に流す涙は、

自分を成長させてくれる。

 

 

今の私は、どれだけ

変われているのだろう。

 

 

音楽に惹かれ、歌に惹かれ、

ギターを鳴らし始めたあの頃から。

 

 

昔の私が、今の私を見たら

どう感じるのかな…。

 

 

ごめんね、昔の私。

思ってた未来とは少し違うよね。

 

 

でも私、頑張ってるから。

ぜっっったいに諦めたり、

投げ出したりなんてしないから。

 

待っててよ、未来の私。

輝くあの場所へ連れて行くから。

 

 

 

 

携帯にメールが届いた。

翔くんからだ。

 

 

 

” 風邪引くなよ!

 喉なんて痛めたら

 元も子もないんだから!

 

 いよいよ明日…だな。

 大丈夫だ。千春がやれることは

 一生懸命やってきたはずだ。

 自慢の歌声を響かせてやれ!

 

 みんな、千春の歌を待ってるから。 ”

 

 

 

私の大事な人は、

いつも私のそばで笑ってくれている。

 

私の歌を素敵だと言って、

いつも笑顔で聴いてくれる。

 

失いたくない。

無くしたくない。

 

小さな成功を重ねるたびに喜んでくれる

あの笑顔を。

 

いつか必ず、一緒に夢を叶える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目覚ましの時間よりも

ずいぶん前に目が覚めた。

眠りは浅かったが、身体は充分に休めた。

 

 

 

あの日のリベンジ。

もうあんな悔しい想いをするのはごめんだ。

 

 

道はこの先だって続いていく。

いや、続かせていく。

 

 

 

 

私にとって忘れられない1日が、

始まろうとしていた。

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写真提供 [Twitter ‪@asari_ka]