365日のストーリー

忘れたくないあの1ページ

「未来へ送る手紙 ④」

 

 

 

 

 

この日のために準備してきた。

 

 

 

この日の為に頑張ってきた。

 

 

 

そんな1日の始まりは、

普段とはまるで違うように感じる。

 

 

 

同じ朝、同じ時間が

流れているはずなのに、

人生の中の大事な1ページに

刻まれるような感覚で、

ジッとなんてしていられない。

 

 

毎日がこんな気持ちになれたら、

1年なんてあっという間に

終わるどころか、

人生ごと一瞬で終わってしまう。

 

 

ツラい日もあって、苦しい日もあって、

嫌になるような日もあるからこそ

生きてる実感が湧けるのかもしれない。

 

 

 

 

「千春、おはよ。

よく寝れたか?」

 

 

「うーん、まぁボチボチ?」

 

 

「あー、こりゃ寝れなかったパターンか」

 

 

「べ、別に大丈夫だよっ」

 

 

「喉の調子はどうだ?」

 

 

「絶好調!」

 

 

「それだけ聞ければ安心だ。

ま、思いっきりやってきな」

 

 

ライブハウスの控え室。

前回の場所とは違うけど、

会場の広さはほとんど変わらない。

 

 

記憶が巡る。

嫌な想像ばかりしてしまう。

 

 

一度目の当たりにしてしまった風景は、

トラウマという名で記憶に刻まれる。

 

少しでも落ち着こうと

ギターをかき鳴らすけれど、

手も声も震えている。

 

 

「翔くん、私…」

 

 

「おっと、弱音はナシだぞ」

 

 

「でも、怖いよ…」

 

 

「緊張するな!不安を捨てろ!

なーんて言ったって、そんなのは無理だからな。

今まで頑張ってきて、

結果を期待したいからこそ緊張するんだ。

緊張をとことん楽しんでやれ」

 

 

 

「緊張を楽しむって、どうやって?」

 

 

 

「今日の夜、自分のベッドに寝転がって、

いつもの天井を見てる姿を想像してみ?

どんだけ楽しくたって、どんだけ嫌だって、

1日は終わるようになってんだ。

どうせこの時間だって、終わっちゃえば

ぜーんぶ思い出話」

 

 

 

「そっか…確かに今までのことは

もう全部過去になっちゃってるんだ」

 

 

 

「そ!だから、思い切ってやってこい!」

 

 

「翔くん、最後の一言がちょっと弱い。

惜しいなぁ、キメきれなかったね」

 

 

「はあ?」

 

 

「冗談冗談!元気出たよ、ありがとう!

翔くんも、楽しみにしててよね!」

 

 

 

「まったく…そんな余裕があんなら大丈夫だ。

もうそろそろ時間か。

楽しみにしてる」

 

 

 

お互いの拳をコツンとぶつけ合って、

最後にガンバレと言ってくれた。

 

 

 

私が大好きな笑顔。

この笑顔が、これからも私に向いててほしい。

 

私が歌う理由、それは…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

会場の照明が暗くなる。

ステージに光が射した。

 

何度も何度も深呼吸をして、

翔くんからの言葉を思い出す。

 

 

「うん、大丈夫だ」

 

 

もう震えは止まっていた。

みんなが待つ場所へ。

 

 

 

 

大歓声とたくさんの拍手に

迎えられた。

 

 

 

 

あ、れ…。

 

 

 

ステージから見える顔は、

すぐに数えられる人数では無かった。

 

 

みんなの顔は、ライブが始まるのを

今か今かと待ちわびている。

 

 

私はずいぶん前から

この今日という日を待っていた。

 

みんなも同じだった。

今日を楽しみに、これだけの人が

集まってくれた。

 

 

溢れそうになる涙をグッとこらえて、

できる限り大きな声を出した。

 

 

「みなさーん!こんばんはー!

今日は私と一緒に楽しい時間を

過ごしましょー!」

 

 

歌っている。いま、私は

こんなに多くの人たちの前で。

 

 

 

私も昔に何度もアーティストさんの

ライブに足を運んだことがある。

 

そのときに言っていたお決まりのセリフは

本当にその通りで、

楽しい時間というのはあっという間に過ぎた。

 

 

 

 

すべての曲を歌い終えて

控え室に戻ると、

いくつも重なった声が

胸の奥まで届いてきた。

 

 

 

 

「アンコール!

アンコール!」

 

 

 

実はまだ、翔くんにも

聴かせたことのない曲が1曲だけある。

 

 

もしもアンコールをもらえたら、

この曲をやろうと決めていた。

 

 

 

 

歓声に応えてステージに上がる。

 

 

 

「皆さん!

アンコールありがとうございます!」

 

 

大事に、大事に温めてきた想いを。

 

 

「次で、本当に最後の曲になります。

この曲は、私の想いを未来の私へ

繋げるためにつくりました。

大事な自分へ、そして

いつも応援してくれる大事な人へ向けて

一生懸命歌います。聴いてください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

思い返すと、あの出会いが

私を大きく変えた。

 

 

そばにいてくれる人の存在を

こんなにも強く感じたのは初めてだった。

 

 

 

自分を支えられるのは自分だけ。

 

そう思ってずっとやってきた。

 

 

 

その悔し涙も、つらかった想いも

すべてを一緒に背負ってくれる

大事な人へ。

 

私が歌うのは、有名になりたいからでも

目立ちたいからでもない。

 

 

 

多くの人に、大事な人に、

笑っててほしいから。

 

 

 

これは、未来の私へ送る手紙。

 

 

 

まだ終わらない、

これからも続いていく

私だけの物語。

 

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写真提供 [Twitter ‪@Youli__0715 ]