365日のストーリー

忘れたくないあの1ページ

「ほんの少しの言葉でも」

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変わらない...。

 

古びた商店街は、近くに出来た

ショッピングモールのせいで

なんだか小さく見える。

 

それでも負けてたまるかとばかりに、

今日もお店たちは活気づいている。

 

商店街のど真ん中を歩いていると、

みんなからの声が飛ぶ。

 

「あら、おはよう翔ちゃん。

今日はお休みなの?

ほら、おでん食べない?」

 

買った量よりもはるかに多く

おまけをつけてくれる

おでん屋のおばちゃんに、

 

「おぉ、翔。パン食べて行かんか?

ちょうど今焼き上がったところだ」

 

毎日がパンでも良いくらい、

一番美味しいときに食べさせてくれる

パン屋のおじちゃんに、

 

「翔ちゃんあけおめー!

今年もウチの漬物、いーっぱい食べてね!」

 

いつも明るくて、元気すぎる

お店の看板娘、曜子ちゃん。

 

俺は有名人でもなんでもない。

小さい頃からたくさん可愛がってもらい、

二十歳を過ぎた今でも温かい。

 

この場所は、ずっと変わらない。

この人たちの優しさには敵わない。

 

そして、言葉の中に

そっと紛れ込んでいる『あいさつ』

当たり前のように教えられたから、

当たり前のように使ってきた。

 

でも、あいさつなんて

なんのためにするんだ?

おはよう、こんにちは、おやすみ...

いつ、どんな時に使えばいいか。

知っているのはそれだけで、

特に意味は考えたこともなかった。

 

 

 

「あ、翔くんおはよ!

もー、遅かったじゃん!

寒くて凍っちゃうかと思ったよ!」

 

「わりぃわりぃ。

商店街のみんなにつかまっちゃってさ」

 

いっぱい着こんでいるせいか、

雪だるまみたく膨らんでて

キャラクターみたいだ。

マフラーで隠れた口から

もごもご喋ってるのが面白い。

 

千春とは、知り合ってからまだそんなに

時間が経っていないのに、

昔からの幼なじみのように錯覚する。

 

歳も今年21で一緒だし、

住んでるところも近かったし、

あまりに偶然すぎる。

そして何より、お互い達成したい

目標を「夢」と呼んで追いかけてる。

 

 

「そういえば、

あけましておめでとうだね!

今年もよろしくね!」

 

「今年も、ってか俺ら去年から

知り合ったんだけどな」

 

「ほんっっっとに、翔くん細かい!!

いいでしょ!別に!」

 

「あのさ、さっき商店街歩いてて

思ったんだけど...。あいさつって

なんの意味があんだろな。

別にしなくたって変わんないのに」

 

そうかな?

私は好きだけど、あいさつ」

 

「いちいちする必要あるか?

あいさつが好きなんて、

一度も思ったこともない」

 

あいさつって色んなのがあるよね?

翔くんが言うように、意味が

よくわからないのもあるかも」

 

「やっぱそうだよな。

じゃあ、なんであいさつって

するんだろうな」

 

「私が好きな理由は、相手のために

してることだから、かな」

 

「相手のため?あいさつが?」

 

「そうだよ。あいさつには

その一言以上の思いやりがあるの。

一日頑張って帰ってきた人には

お疲れさま、お帰りなさい。

ご飯を作ってくれた人に

感謝の気持ちを込めて

いただきます。

おいしかったよ、ごちそうさま。

ゆっくり休んでね、また明日ね

で、おやすみなさいって」

 

「そんな風に考えたことなかったな」

 

「あいさつに一言足してあげるとね、

とっても思いやりのある言葉になるの。

翔くんの応援だって、

いつもちゃーんと届いてるよ。

おかげで毎日頑張れるんだから。

支えてくれて、ありがとね」

 

「な、なんだよ、急に...」

 

「あれ?あいさつされたら

返さなきゃじゃないのー?」

 

「こ、こちらこそ。

話聞いてくれて、いつも温かい気持ちに

してくれて、応援してくれて...

どうも、ありがとう」

 

「うん!どういたしまして!」

 

 

あまりにも綺麗すぎる笑顔だった。

今年もたくさん、この笑顔に

元気もらうんだろうな。

 

「なーに、ニヤニヤしてんの!

早く初詣行くよー!」

 

「し、してねーよ!

千春こそ、なんだそれ鼻真っ赤にして。

クリスマスはもう

終わりましたよ、トナカイさん」

 

「寒いんだもん、しょーがないでしょ!

翔くんが早く来ないからいけないんだよ!」

 

 

 

あいさつに想いを一言添えて、

毎日を頑張る、大事な人へ。

 

 

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